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私のちオレときどき僕

年収400万の家づくりノート、子育て、想うことなど。日々を綴ります。

面接に落ち続けた僕を救ってくれた先輩の言葉「面接官は敵じゃない。将来一緒に働く仲間だ」

就職活動中の話。
 
もうかれこれ10年近く前のことになるが、当時の僕はかなりのあがり症で初対面の人と話すことがとても苦手だった(今でも得意ではないが)。
面接なんて想像するだけで全身がガッチガチになってしまい、話をしていてもすぐに脳がオーバーヒートしてしまって支離滅裂、全く話が噛み合わない。
 
そんな僕だったから、当然のように簡単に内定がもらえるはずもなく何社も受けては落ちて...を繰り返していた。
最初のうちはまぁこんなものだろうと悠然と構えていた。しかし、不採用が続き10連敗、20連敗…と積み重なるうちに次第に焦りが出てくる。
 
 「何回受けても結果は同じじゃないか」
 「このまま永久に就職出来ないんじゃないか」
 
じりじりとした不安を打ち消すように日々ゲームボーイアドバンスのパワプロくんポケットでサクセスをやり込んでいた。ただの現実逃避である。
 
初夏の若葉のような初々しい心はしおれ、だらだらと惰性の日々を過ごしていたある日のこと。たまたまバイト時代の先輩と話す機会があった。IT業界でフリーランスとして働いている先輩は僕の話を親身になって聞いてくれて
 
 「じゃあちょっとアドバイスしてやるよ」
 
と僕を呼び出して雑居ビルの会議室のような場所に連れていった。
当時の僕は
 
 「部外者の自分がこんなところに入って良いのかな」
 
と内心かなりビビっていたのだが、今にして思えば誰でも使える会議用のパブリックスペースだったのだと思う。 会議スペースで先輩としばらく待っていると、先輩の知人の久松さんという方がやってきた。
 
 「やぁ君がxxx君か。話は聞いてるよ」
 
久松さんはよく喋る方で、気さくで明るい印象だった。元々プログラマをしていたが、そのコミュニケーション能力を買われて営業に転身したらしい。自分とあまり年齢は変わらないはずなのに雲泥の差である。
 
 「じゃ、早速面接の練習がてら質問するね」
 「あっ、は、はい」
 「何故この業界に入ろうと思ったのですか?」
 「えー...と...。これから先の時代は、やはり、インターネットを使った、システムが、必要で、その、あると思います」
 「常に技術が進歩していく大変な業界なのですが、何か勉強はしていますか?」
 「えっと、大体、その、毎日2時間くらい、勉強をしていて、でも、それを大変だと思ったことは、ありません」
 
言うまでもないが、全くもって質問の解答になっていない。
しかも、話している当の本人の思考回路はとっくにショートしているため、おかしな解答になっていることにすら気づかない。手の施しようもない重病だ。
 
 「じゃあちょっと質問を変えますね。趣味は何かありますか?」
 「えっと...音楽を聴くことです」
 「どんな音楽?ジャンルは?好きなミュージシャンとかいますか?」
 「ロックで...ブランキージェットシティというバンドが好きです」
 「何故好きなのですか?」
 「彼らの独特の一体感というかグルーヴ感があるのですけれど、ライブ盤を聴いているとその空気がそのままダイレクトに感じられて、とにかくカッコ良くて好きなんです」
 
ふいに、久松さんはニヤリと笑った。
 
 「なんだ、君、喋れるんじゃん」
 「あっ...」
 
僕は息をのんだ。
 
 「君は喋れないんじゃないんだよ。うまく喋ろう、自分をよく見せようとするあまり、そっちにばかり気がいってしまって、会話に集中出来ていないんだよ」
 「...」
 「現にほら、好きなことならスラスラと喋れたじゃないか」
 「そう...ですね...」
 「もっとリラックスしてさ、自分の思っていることを飾らずに言えば良いんだよ」 
 「はい!ありがとうございます」
 
 
 
 
久松さんと別れた後、先輩はこう言った。
 
 「お前さ、面接官を自分を品定めする怖い人みたいに思ってないか?」
 「そうですね...そういうところはあると思います。正直怖いです」
 「それが違うんだよ。面接官なんて大体は久松みたいな適当なヤツなんだよ」
 「なるほど...」
 「面接官は敵じゃないんだ。もし面接がうまくいったら、これから先の何年か一緒に働くことになる将来の仲間なんだぞ。そう思ってまずは相手のことを信用して話してみろ」
 「...はいっ!」
 
先輩の言う通りだった。
面接官を仲間だなんて思ったことは一度も無かった。
僕は自分で勝手に壁を作ってその向こう側で独り相撲をとっていただけだった。
 
 
 
 
この出来事からしばらく後のこと。
僕は無事に職にありついて働けることになった。
残念ながら、正規の社員登用ではなく社員登用を見据えての見習いアルバイトとしてだったが、待遇には納得していたし目標としていた業界に一歩足を踏み入れることが出来て満足していた。
 
それからさらに数年後。
今度は僕が後輩に向けて先輩の台詞を言うことになるのだが、この当時の僕はまだ知るよしもなかった。
 
 「面接官は敵じゃない。将来一緒に働く仲間だ」
 
 
(終)